「北海道産」だけではブランドにならない。NORTH FARM STOCKに学ぶ、価値の伝え方【後編】
※この記事は前編・後編の2回に分けてお届けしています。前編では「Vision」「Story」「Design」の視点から、NORTH FARM STOCKのブランドを読み解きました。
後編では、「Experience(顧客体験)」を切り口に、このブランドがどのようにお客様との関係を築いているのか、そして、その背景にある経営戦略について考えてみたいと思います。
顧客体験は、商品を食べる前から始まっている
ブランド体験というと、「商品を食べたときのおいしさ」を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、それは最も重要な体験です。しかし、NORTH FARM STOCKでは、お客様との接点はもっと前から始まっているようです。
サイトの商品ページの記載は、単に製品特徴や容量情報だけではなく、
例えばアップルシナモンジャムでは、
「サクッと焼けたトーストにひと塗り。まるで焼きたてアップルパイのような味わい。」
という一文から始まります。これは、商品の特徴を説明するのではなく、食卓の風景を伝えています。さらに、トーストやスコーンだけでなく、紅茶やホットミルク、アイスクリーム、チーズなど、さまざまな楽しみ方が紹介されています。ルバーブジャムではパンだけでなく、ローストポークや鴨肉、生ハム、チーズとの組み合わせまで提案され、ストロベリーミルクジャムでは二層構造という見た目の楽しさも伝えています。
つまり、「ジャムを売る」のではなく、「北海道の食を楽しむ時間」そのものを提案していると言えます。
もちろん、ジャムとしてのおいしさや品質は大前提で、これはブランディングでいう機能的価値にあたります。一方で、NORTH FARM STOCKが伝えようとしているのは、焼きたてのパンにジャムを塗る朝の時間、家族と囲む食卓、ティータイムや贈り物など、その商品があることで生まれる豊かな時間や気持ちかもしれません。これは情緒的価値と言えるものです。
前編で紹介したブランドコンセプトにも、「北海道のおいしいものを全国へ届ける」という想いが語られていました。商品説明を読むと、その想いが単なる理念ではなく、一つひとつの商品ページの言葉にまで一貫して落とし込まれていることが分かります。
だからこそ、お客様は「ジャムを買った」という感覚ではなく、「北海道らしい豊かな時間を持ち帰った(贈られた)」という印象を受けるのではないでしょうか。
贈りたくなる仕組み
顧客体験は、自宅で食べる場面だけではありません。NORTH FARM STOCKでは、ギフトセットやラッピング、手提げ袋、熨斗対応などが丁寧に用意されています。ギフトボックスやショッピングバッグもブランドカラーで統一され、ロゴが美しく配置されています。商品だけではなく、箱を開ける瞬間や、手渡す瞬間までブランド体験として設計されていることが伝わってきます。
さらに、ブランドロゴにも同じ思想を感じます。ロゴには、かごをモチーフにしたシンボルマークが使われています。ブランド名の「STOCK」は、「蓄える」「蔵出し」といった意味を持ちますが、このかごのモチーフも、北海道のおいしいものを集め、お客様へ届けるブランドであることを非常にうまい言葉で表現していると感じます。
ロゴ、パッケージ、ギフトボックス、ショッピングバッグなどの各タッチポイントに、同じ世界観が貫かれているからこそ、「NORTH FARM STOCKらしさ」が積み重なっていくのでしょう。
このブランドの本当の強さ
今回、ホームページだけでなく、中小企業基盤整備機構や北海道経済産業局の事例記事も読んでみました。
「白亜ダイシン」北海道の農産物が新事業の成功を導く(中小機構J-Net21)
「North Farm Stock」ブランド構築を通じた首都圏等への販路拡大と製造プロセス改善による生産性向上(北海道経済作業局)
そこで分かったのは、NORTH FARM STOCKは、最初からブランドを作ることを目的に始まったわけではないということです。
もともと白亜ダイシンは、北海道岩見沢市で金物店を営んでいます。全くの異業種であるとは知らず、まずこの点に驚かされました。2000年代前半、大型店の進出によって商店街は衰退し、「金物だけでは商売を続けられない」という危機感を抱くようになったが契機でした。そこで社長が着目したのが、北海道の農産物でした。北海道には良い素材がたくさんある。しかし、それをそのまま売るのではなく、「北海道の農産加工品がたくさんある」というブランドコンセプトを先に掲げ、ブランドを作ってから商品を展開するという道を選んだのです。
この順番は、とても示唆に富んでいます。
中小企業では、「商品ができたからブランドを考える」ことが少なくありません。一方、白亜ダイシンは、「どんなブランドになるのか」を先に決め、その世界観に沿って商品やデザインを積み上げていきました。
前編で紹介したブランドコンセプトやデザインの一貫性は、偶然生まれたものではなく、創業当初からの経営判断の積み重ねだったことが分かります。
ブランドは一夜にして成らず
現在では、NORTH FARM STOCKは北海道を代表する食品ブランドの一つとして知られています。しかし、その道のりは決して順風満帆ではありませんでした。
最初の商品はトマトジュースだったそうです。ワインボトルを採用し、デザインにもこだわり、当時としては高価格帯の商品として販売しました。ところが、東京の高級レストランやセレクトショップへ営業しても、すぐには注文につながりません。それでも諦めず、人とのつながりを広げ、展示会への出展を重ねることで販路を少しずつ開拓し、やがてブランドとして認知されるようになっていきます。
ブランドとは、ロゴやパッケージを作れば完成するものではありません。
想いを持ち、それを信じて発信し、動き続けることによって、初めてブランドとして認識されるのだと感じました。
地域との関係までブランドになる
ブランドが成長すると、商品数も増えていきます。現在では100を超える商品が展開され、生姜シロップなど、農商工連携によって生まれた商品も数多く開発されています。北海道の農家と連携し、新たな加工品を生み出し、自社工場で製造し、全国へ届ける。ブランドが育つことで、生産者とのつながりも深まり、地域全体の価値向上につながっていることが事例から読み取れました。
前編で紹介した、「北海道のおいしいものを全国へ発信し、愛する北海道を元気にする。がブランドコンセプトです。最初に読んだときは理念のようにも感じましたが、現在までの経緯を知ると、単なるキャッチコピーではなく、実際の経営そのものを表している言葉だったことが分かります。
日々の経営判断の積み重ねが、お客様から見える形になったものなのだと思いました。
中小食品メーカーが学べること
今回、NORTH FARM STOCKを分析して、改めて感じたことがあります。
ブランドとは、おしゃれなパッケージやホームページを整えることではないということです。
白亜ダイシンは、事業転換という大きな経営課題に向き合う中で、「何を売るか」ではなく、「どんな価値を届ける会社になるか」を先に決めました。その考え方が、ブランドコンセプトとなり、商品開発となり、デザインとなり、販路開拓となり、地域との連携へと広がり、現在のNORTH FARM STOCKというブランドを形づくっています。
だからこそ、ブランドづくりはマーケティング部門だけの仕事ではなく、経営そのものなのです。
もし自社でブランドづくりに取り組むのであれば、ロゴやパッケージの前に、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。
「当社は、何を売る会社なのか」ではなく、「どんな価値を届け続けたい会社なのか」。
そのお手伝いが出来ましたら幸いです。
