伝統食品は、どうすれば選ばれ続けるのか― 小松製菓に学ぶブランド戦略【前編】
自社ブランドの売上が伸びなくなってきたとき、何から考えたらいいでしょう?
新商品を増やせば解決するとは限りませんし、パッケージを変えればブランドになるわけでもありません。
やらなければならないことは数多くありますが、その際に見失ってはいけないものがあります。
「自社は何者なのか」というブランドの軸です。
今回ご紹介する小松製菓は、約600年の歴史を持つ南部せんべいを扱いながらも、新しい価値を生み出し続けてきた企業です。
私が興味を持ったのは、新商品のアイデアなどはなく、一つひとつの取り組みの背景に、一貫した考え方があるように感じたことです。今回は、そのブランド戦略を読み解いてみたいと思います。
「伝統商品」という市場の難しさ
小松製菓の主力商品は、岩手県を代表する伝統菓子「南部せんべい」です。しかし、伝統食品は、多くの中小食品メーカーが抱える共通の課題も持っています。
「昔ながらのお菓子」
「年配の方向けの商品」
「旅行のお土産」
こうしたイメージが定着すると、若い世代との接点は少なくなります。市場が縮小していく中で、伝統を守ることと、新しいお客様を増やすことをどう両立するか。これは南部せんべいだけではなく、多くの老舗食品メーカーに共通するテーマではないでしょうか。
小松製菓が変えたのは、商品ではなく”伝え方”
小松製菓は、「チョコ南部」をはじめ、従来の南部せんべいのイメージにとらわれない商品を数多く生み出してきました。さらに近年では、「ワールドナンブプロジェクト」を立ち上げています。
コンセプトは、「まるでないカタチをつくる。」
BARタイプの商品やパンケーキ、アイスクリームなど、新しい食べ方を提案しています。私が印象に残ったのは、商品そのものよりも、ブランド全体の世界観です。ロゴやホームページは、従来の「巖手屋」の印象とは大きく異なります。黒を基調としたロゴ。ポップで勢いのあるデザイン。
若々しく、創意工夫を歓迎する空気が伝わってきます。
一方で、「南部せんべいらしさ」が失われたとは感じませんでした。むしろ、「伝統を未来へつないでいくために、新しい挑戦を続ける会社」という企業像が、以前より明確になったように思います。
ブランドは商品だけでつくられるものではありません。ロゴやデザイン、言葉、ホームページなど、あらゆる接点から企業の価値観は伝わります。ワールドナンブプロジェクトは、新商品開発というだけでなく、「私たちは挑戦し続ける会社です」というメッセージそのものになっているように感じました。
ブランドアイデンティティが経営判断を変える
ブランド・マネージャー認定協会では、「ブランドアイデンティティ」をブランドの核と考えます。ブランドアイデンティティとは、「自社は何者なのか」「どのような価値を提供する存在なのか」を明確にすることです。この軸が定まると、新商品開発や販路、情報発信など、一つひとつの経営判断にも一貫性が生まれます。
小松製菓は、「南部せんべいを製造する会社」ではなく、「南部せんべいという食文化を未来へつないでいく会社」として自社を位置づけているように見えます。だからこそ、チョコ南部も、ワールドナンブプロジェクトも、一見すると異なる取り組みでありながら、同じブランドとして自然につながっています。また、小松製菓は一時期約400アイテムまで商品数を増やしましたが、その後170〜180アイテム程度まで整理しています。食品メーカーでは、新商品を出せば出すほど、原材料、包材、在庫、賞味期限管理などの負担が増えていきます。私は食品卸で多くのメーカーの商品提案を見てきましたが、「商品数を増やせば売上が伸びる」わけではないこのが現実です。なので、勇気が必要ながら、とても賢明な判断だったと思います。
何を作るかだけでなく、何をやめるか。
これもブランドの軸があるからこそできる経営判断なのだと思います。
まとめ
私は経営支援の中で、「ブランドを変えたい」という相談を受けることがあります。そのとき、多くの企業が最初に考えるのは、商品名やパッケージ、ロゴの変更です。しかし、小松製菓の事例を見ると、それらは出発点ではなく、結果であることが分かります。
最初にあるのは、「自社は何者なのか」というブランドアイデンティティです。その軸が明確だからこそ、新しい商品やデザインに挑戦しても、ブランドはぶれません。
もし自社で取り組むなら、まずは次の3つを考えてみてはいかがでしょうか。
- お客様は、なぜ自社を選んでくれているのか。
- 将来も変えたくない価値は何か。
- その価値は、今のお客様に伝わる形になっているか。
自社は何者なのかを明確にし、その価値を商品やデザイン、情報発信など、あらゆる接点で一貫して伝えていくこと。
ご自身で導き出すのが難しい場合は、第三者との壁打ちが有効です。
後編では、小松製菓の「感謝と創造」という理念がどのように社員や地域へ浸透し、ブランドを支えているのかを見ていきたいと思います。
