“高いのに売れる”はどう作る? ~『茅乃舎だし』に学んでみる~

スーパーの棚に並ぶ顆粒だし。100円台から買えて、どの家庭にもある、ごく普通の調味料です。
ところが茅乃舎のだしは、同じ「だし」でありながら、1パックあたり数倍の価格帯で、しかも定価で売れ続けています。値引きもなく、セールもしない。それでも買う人が列をなしています。
いったい、何が違うのでしょうか。

「うちの商品、品質には自信があるのに、やっぱり価格を求められる……」

そんな悩みを抱える食品メーカーや食品卸の経営者の方は、少なくないのではないでしょうか。
コスト上昇が続く中、値引き要請は止まらず、気づけば利益が出ない構造になっていませんでしょうか。
これは、真面目にモノづくりをしている中小企業ほど陥りやすい状況かもしれません。

では、先ほどの「だし」は、なぜ同じ「だし」なのに、茅乃舎は定価で、しかも喜んで買われるのでしょうか。それは、商品の“中身”ではなく”意味”を売る技術にあるのかもしれません。


茅乃舎の挑戦——九州発の小さなだしが全国ブランドになるまで

茅乃舎を運営する久原本家グループは、もともと福岡・糟屋郡に根を張る地方の食品メーカーです。決して潤沢な広告予算を持つ大企業ではありませんでした。

関東進出の際、「九州の焼きあごだしが東京で受け入れられるか」という不安は当然あったといいます。しかし同社が選んだのは、地域に合わせて味をアレンジする道ではありませんでした。素材も思想も味も、一切変えない。その”本物感”を貫いたことで、東京市場でも強い支持を得ることができました。

2010年に東京ミッドタウンへ初出店すると、2013年には売場を約3倍に拡張。だしを使った料理を楽しめるイートイン「汁や」を併設し、商品を”体験”として届ける場に育てていきます。店舗で世界観に触れた顧客が、通販でリピートする——この循環が積み重なり、グループ年商は約6年で84億円から225億円へと拡大しました。


なぜ売れるのか——「だし」ではなく「丁寧な暮らし」を売っていたから

茅乃舎の成功を、ブランディングの視点で整理すると、その構造が見えてきます。
ブランドの価値とは、大きく3層に分かれます。

ブランドの3つの価値

機能価値 (何ができるか)
情緒的価値(使うとどんな気持ちになるか)
社会的価値(それを選ぶことで、どんな自分・社会を体現できるか)

多くの食品メーカーは、「無添加」「素材にこだわった」という機能価値しか発信できていません。
しかし茅乃舎は、「無添加のだし」という機能に加え、「手間をかけた食卓」という情緒的価値もうまく提供しています。それは店舗の空間・接客・パッケージを通じて表現されています。
さらに「本物を選ぶ暮らし」という社会的価値まで設計することで、価格ではなく”意味”で選ばれるブランドになったといえるのではないでしょうか。

価格競争をしない方針も、この流れの中で理解できます。
安売りをした瞬間に、「丁寧な暮らし」の世界観は壊れてしまいます。
値引きしないことが、ブランドの一貫性を守ることだったと理解できます。


明日から自社で実践できる3つのアクション

① 自社商品の「3層の価値」を書き出すしてみる
機能価値・情緒的価値・社会的価値、それぞれに自社商品が提供できる価値を言語化してみましょう。
「なぜこの製法にこだわったのか」「誰のどんな場面を想像して作ったのか」。
そこに人の心を揺さぶる情緒的価値が隠れているかもしれません。

② 商品の”背景”をひとつ選んで発信してみる
素材の産地、作り手の想い、生まれたエピソード——どれかひとつでも構いません。
HPや商品パッケージ、営業トークに組み込むだけで、「ただの商品」が「選ぶ理由のある商品」に変わります。

③ 価格を下げる前に「見せ方」を変える
値引きは最後の手段です。
まず、売場提案・パッケージ・試食・SNSなど、価値を”体験”してもらう接点を一つ増やすことから始めてみてください。


まとめ

茅乃舎の事例のように、大きな予算がなくても、価値の言語化と一貫したブランド設計があれば、地方の中小食品メーカーでも「高くても選ばれる商品」は作れるということです。

ブランディングには、「意図的」、「一貫性」、「継続性」という3つの要素があります。今回は、「一貫性」が垣間見える事例だったのではないでしょうか。
「一貫性」とは、ロゴやパッケージなどのデザイン、発するメッセージ、店頭やオンラインでの顧客体験など、すべての顧客接点(タッチポイント)でバラバラのイメージを提供しないことです。一貫したイメージを提供することで、ブランドが生活者の頭の中に築かれていくのです。

価格競争から抜け出す第一歩は、自社の商品が持つ”意味”を自分自身が言葉にすることから始まります。そして、意図的に、一貫性をもって、継続した努力をしていくこと。
あなたの商品には、まだ語られていない価値が、必ずあるはずです。

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